エルタニン伝奇
「!」

不意に女が、ラスの宝剣に手を伸ばした。
が、宝剣を奪われる前に、ラスは女の手首を掴む。

勢いのままラスに近づいた女は、血まみれの口から、何かを吹き出す。
間一髪避けたが、血と共に飛んできた何かが、ぎりぎりラスの横髪を、何本か落とした。
同時に寝台を蹴って、ラスに蹴りを食らわそうとする。

「・・・・・・鬱陶しい奴だな!」

破れかぶれに攻撃してくる女に業を煮やし、ラスは掴んだ女の腕を、思い切り捻り上げた。
ばきっという音が響き、女が息を呑んで目を見開く。

女の腕をへし折ったラスは、そのまま女の裸体を打ち据えた。
衝撃に倒れ込んだ女の右太股に、宝剣を突き立てる。

「がああぁぁぁっっ!!」

血の泡を吐きながら、女が叫んだ。

舌を潰され、片腕をへし折られ、さらに片足を剣で寝台に縫い止められた女を、ラスは冷ややかに見下ろした。

そのとき、ことりと小さな音がした。
振り向くと、メリクが立ちすくんでいる。

さぞや恐ろしい光景だろうに、意外にもメリクは、特に取り乱すこともなく、じっと血まみれの女を見つめている。

「・・・・・・人を呼んでくれ」

呟くように命じたラスの言葉にも、メリクはさっと身を翻して従った。
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