エルタニン伝奇
半死半生の女は、すぐに駆けつけたラスの近衛隊と、ルッカサの兵士によって、運び出された。
驚いて駆けつけたルッカサ女王は、ちらりと見えた女の惨状に、気を失ってしまった。
兵士たちでさえ、見た瞬間は息を呑んでいた。
床に落ちた、食いちぎられた舌に、吐き気をもよおす者もいたのに、メリクは平然と、血で汚れたラスの顔を拭き、着替えを用意した。
今も、血まみれになった寝台を整えている。
---妙な奴だ---
思いながら、ぼんやりとメリクを眺めていたラスは、近衛隊長に視線を戻した。
寝室と続き間になっている居間で、前に座った近衛隊長は、渋い顔で考え込んでいる。
「そのようなことを、イヴァン側が考えていたとは。海戦でもないのに、援軍要請など、おかしいと思っておりました」
海に囲まれたエルタニンは、海戦が得意である。
そのため、海戦に不慣れな内陸の国は、たびたびエルタニンに海軍の援軍を要請するのだ。
戦に限らず、輸送船や王侯貴族の渡航の護衛なども請け負う。
海に関することなら、どんなことでもおかしくないのだが、今回のことは、海に関する要請ではない。
「まるで、ラス様をおびき寄せるための要請のようですな」
「氷の美姫探索というだけでは、俺が出張るとは限らんだろう」
「今回の要請を受諾したのは、神官です。あなたを指揮官に任命したのも彼らだ。表向きは、まだお若い王の名を、この機会に諸外国に示すために、などともっともらしいことを言っておりましたが、事実はそうではありますまい」
長くラスの傍近くに仕えていて、裏の事情にも詳しい隊長は、悔しそうに言う。
驚いて駆けつけたルッカサ女王は、ちらりと見えた女の惨状に、気を失ってしまった。
兵士たちでさえ、見た瞬間は息を呑んでいた。
床に落ちた、食いちぎられた舌に、吐き気をもよおす者もいたのに、メリクは平然と、血で汚れたラスの顔を拭き、着替えを用意した。
今も、血まみれになった寝台を整えている。
---妙な奴だ---
思いながら、ぼんやりとメリクを眺めていたラスは、近衛隊長に視線を戻した。
寝室と続き間になっている居間で、前に座った近衛隊長は、渋い顔で考え込んでいる。
「そのようなことを、イヴァン側が考えていたとは。海戦でもないのに、援軍要請など、おかしいと思っておりました」
海に囲まれたエルタニンは、海戦が得意である。
そのため、海戦に不慣れな内陸の国は、たびたびエルタニンに海軍の援軍を要請するのだ。
戦に限らず、輸送船や王侯貴族の渡航の護衛なども請け負う。
海に関することなら、どんなことでもおかしくないのだが、今回のことは、海に関する要請ではない。
「まるで、ラス様をおびき寄せるための要請のようですな」
「氷の美姫探索というだけでは、俺が出張るとは限らんだろう」
「今回の要請を受諾したのは、神官です。あなたを指揮官に任命したのも彼らだ。表向きは、まだお若い王の名を、この機会に諸外国に示すために、などともっともらしいことを言っておりましたが、事実はそうではありますまい」
長くラスの傍近くに仕えていて、裏の事情にも詳しい隊長は、悔しそうに言う。