エルタニン伝奇
「そういわれてみれば、確かにわたくしも、今回のことで初めて知ったぐらいです」

「そうですね、私も。大陸では、そんなに有名な伝説なのですか?」

比較的若い者は、今回の従軍で氷の美姫のことを初めて知ったらしい。
ある程度年齢のいっている者は、一応そういう伝説の存在は知っているようだ。
が、『そういう伝説がある』というだけで、詳しい内容までは知らない。

「不思議だと思わないか? 考えようによっては、我が国に深く関わることだからこそ、我が国内では執拗に隠されてきたのかもしれん」

「王は何か、そのような具体的なことを、お知りなのですか?」

武官の一人が、ラスに問う。
ラスは黙って、サダルスウドを見つめた。
しばらくの沈黙の後、ゆっくりとサダルスウドが口を開く。

「確かに神殿には、大陸に伝わる伝説の類も、数多く伝えられておりますが」

言いながら、末席からラスに顔を向ける。
かなり高齢のサダルスウドは、真っ白な髪が肩の辺りまで伸び、同じように白い髭を長く垂れていて、東のほうに伝わる‘仙人’のようだ。

地位的には最高神官より上の、神殿の最高位だが、神官どもと違い、威圧的な雰囲気は微塵もない。
最強の力を持つともいうが、そんな神通力を感じるどころか、存在さえ忘れそうだ。

ガストン伯と通じて、自分を葬る計画の監視役がサダルスウドではないかと言ったラスだが、正直この年寄りに、そのような大役を任せられるとも思えない。
イヴァンで皆とはぐれれば、一発で凍死しそうな頼りなさだ。
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