エルタニン伝奇
---だが、神殿の奴らは、見かけではわからん。あいつだって・・・・・・---

メリクを思い、ラスはサダルスウドを見返す。
ラスの鋭い視線にたじろいだように、サダルスウドは少しだけ顔を伏せた。

書類もろくに集められないような、のろまなメリクだって、事も無げにミルバを集めたり、誰もが眉を顰めるような惨劇にも怯まない。
この老人だって、サダルスウドという地位にある以上、それなりの力はあるはずだ。

「では王は、やはり今回の氷の美姫探索からは、手を引く気はない、と?」

ああ、と答え、ラスは隊の編成を記した紙を広げた。

「イヴァンからも、援軍要請を取り下げる気はないと言ってきている。イヴァン皇帝からの正式な依頼を、こちらもそう簡単には無視できん。だが、ガストン伯の暴挙を不問にするのも気に障る。そこでだ。イヴァンの隊と行動を共にする者を、大幅に減らす」

ラスはそう言って、紙の中央、近衛隊の部分を丸で囲った。
近衛隊は、ラスの最も近くを守る部隊だ。
それ故、生え抜き揃いである。

「近衛隊なら、多少の戦闘であれば、十分耐えられるはずだ。イヴァン皇帝の言うことが本当なら、ガストン伯が仕掛けてきても、大したことはない。一国の王の暗殺に、女一人しか寄越さないような奴だからな」
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