エルタニン伝奇
「重ね重ね、かたじけない。有り難く頂戴いたします」

そう言って、ラスは自分の左耳の、サファイアのピアスを外した。
代わりに今しがたいただいた、守り石のピアスをつける。

「それでは」

守り石が入っていた袋に、サファイアのピアスの片方を入れ、女王に渡しながら、ラスは微笑みかける。
背を向け、コアトルのほうへ歩いていくラスを、女王はまるで恋人を追うかのように切ない目で見つめた。

コアトルの前で、ラスはちらりと傍らに控えるサダルスウドに目をやった。
分厚い外套を着込み、ヴォルキーに跨っている。
足はきちんと確保したようだ。

メリクはというと、サダルスウドのヴォルキーを怯えた目で見つつ、助けを求めるように、コアトルに引っ付いている。

---何とも頼りない案内人だな---

知らず、苦笑いが浮かぶ。
国境でイヴァンの者と合流して、本格的に探索に入ることになるのだが、イヴァン側でも場所がわかっているわけではないだろう。

おそらく、サダルスウドが一番頼りになる道案内人なのだ。
もしかしたら、メリクかもしれない。

イヴァンがどう進むつもりなのかはわからないが、ラスはサダルスウドの指示通りに進もうと決めていた。

コアトルに飛び乗り、メリクを引き上げると、ラスは全軍に声を張り上げた。

「出立!」

ラスの声に、近衛隊のヴォルキー・チーリェフが、ふわりと飛び立つ。
姿形は狼や虎だが、ヴォルキーもチーリェフも、空を飛べる。
空を翔る狼と虎の群れに紛れ、コアトルも進む。

メリクはラスの前で、きょろきょろと眼下に広がるルッカサを見ている。
今日はちゃんと跨っているので、景色を眺める余裕もある。
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