エルタニン伝奇
「エルタニン兵! 全軍退けぃ!」

ラスが声を張り上げた。
その声に、利かない視界の中からばらばらと、エルタニンの兵士が集まってくる。

このような猛吹雪の中では、気配を察するのは容易ではない。
音を頼りに動くしかないのだ。

声を出せば、己の居所を敵にも知られることになるが、まずは兵士らの無事を確かめたい。
指示を出すためにも、正確な動ける人数を把握しなければならない。
エルタニン兵は、程なくラスの周りに集結した。

「そなたの配下も集まったようだな。・・・・・・少ないが」

ラスは集まった兵を見渡し、アンドレイに言った。
エルタニン兵はほぼ全員無事のようだが、イヴァン兵は、だいぶ数が減っている。

ラスは、次は声を出さず、身振りだけで指示を出す。
全軍、静かにその場を離れた。

「お前らは先発隊と合流しろ。辿る道が違うから、先の兵とは鉢合わせしていないだろう」

「ですが、王は・・・・・・?」

「後発隊に合流する。すぐ後ろに来ているはずだ。先発隊と合流したら、すぐに引き返してルッカサに戻れ」

近衛隊長は少し考えた後頷き、傍の兵士に命じた。

「では、お前に頼もう。皆を引き連れ、先発隊と合流せよ。先発隊は、もっと東寄りの、山沿いに進んでいる。目立たないよう地を進んでいるから、お前たちもある程度進んだら、低く進めよ」

兵士が頷き、近衛隊を率いて離れていく。
隊長はその場に残り、ラスを見た。
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