エルタニン伝奇
「私は、王と共に。先の兵がこちらに気づくやも知れませぬ故」

近衛隊は、王直属の精鋭部隊である。
隊長以下でも、それぞれ誰もが一隊を率いることができるほどの能力を有している。

ラスは頷き、ゆっくりと前進を続けた。

「この分では、ガストン様側の兵士も、みすみす動くことはないでしょう。しかしエルタニン軍は、海戦が得意ということは有名ですが、このような状況は、苦手なのではないのですか?」

半分以下になったイヴァンの探索隊を率い、アンドレイがラスに問う。
ラスは前を向いたまま、口の端をつり上げた。

「海戦に強いということは、あらゆる状況に強いということだ」

簡単に言い、ラスは白い視界を睨む。

エルタニンの海軍は最強だ。
それはただ、国が海に囲まれているからというだけではない。
ラスの言うとおり、エルタニン軍は、あらゆる悪条件でも、ものともしないからだ。

海戦というのは、陸の戦いよりも、危険が多い。
足元は不安定に揺れることもあるし、濃い霧の中で斬り合うこともある。
さらに、陸での戦との決定的な違いは、一歩間違えば海に落ちるという危険と、常に隣り合わせということだ。

先程の戦で、エルタニン軍側にほとんど被害がなかったのは、視界が利かないのは海戦での霧と同じことだからだ。

---もっとも、この寒さと風のうるささには辟易だがな---

思いつつ、ラスは上空を振り仰いだ。
後発隊は、まだ見えない。
吹雪には確かに慣れていないから、吹き付ける雪に、思うように進めないのかもしれない。
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