エルタニン伝奇
そのとき、いきなりラスのすぐ横を、一本の矢が唸りを上げて飛び去った。

「!!」

隊長の顔色が変わる。
下に目を凝らせば、先程の兵であろう、武装した一団が、一様に矢を番えた弓を、こちらに構えていた。

「・・・・・・気づかなかったな。アンドレイ殿、あれは、確かにガストン伯の兵か?」

ラスが、冷たい目で眼下を見下ろしながら言う。

「・・・・・・っそうです。あくまで当初の目的を果たすつもりか。何と愚かなお人よ。そのような単細胞だから、誰もついてこないのだ」

吐き捨てるように言うアンドレイは、怒りに燃える目で剣を抜き放った。
そのまま、ラスを振り返る。

「いかに愚かな知事の起こした愚行であっても、我が国の皇族が起こしたことには変わりませぬ。ここは我々に任せ、王は先の隊にお戻りください。我が国の尻拭いは、我が国が」

「そう上手くいくかね」

アンドレイの申し出に、ラスはちらりと下の兵士とアンドレイ配下の探索隊を見比べた。

数は同数ぐらいか。
だがアンドレイの率いる者は、兵士とはいえ探索隊だ。
ガストンが差し向けたのが、それなりの兵士なら、数が同じでもこちらが不利である。
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