エルタニン伝奇
「っつぅ・・・・・・」

ラスが、頭を垂れる。
ラスの右肩に突き刺さった矢は、肩を貫通し、前に座るメリクの眼前に、血の滴る鏃を突き出していた。
その矢を、ラスが掴む。

「! 駄目ですよ」

力任せに矢を引き抜こうとしたラスの手を押さえ、メリクが言った。
ラスが何かを言う前に、メリクは手早くラスの身体近くで矢を折った。
そして手をラスの背中に回し、背中側から矢を引き抜く。

「くぅっ・・・・・・っ!」

歯を食いしばるラスの額を、脂汗が伝う。
メリクは自分の衣の裾を裂くと、ラスの外套の中に顔を突っ込んだ。

ごそごそ、と傷口の辺りの素肌を触っていたかと思うと、やがてぎゅ、と縛られる感触がし、ぴょこんとメリクが顔を出した。

口元が血に濡れている。
薬などないため、傷口を舐めることで、応急処置としたのだろう。
メリクは袖で、ラスの汗を拭った。

大分上空まで上がったため、もう矢は飛んでこない。

ラスは下を見た。
地上では、まだアンドレイや近衛隊長が戦っている。

ラスが射抜かれたのを見たのだろう、隊長はしきりに上空のラスを気にしている。
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