エルタニン伝奇
「王。傷は、大丈夫なのですか?」

しばらく飛んでからサダルスウドが気遣わしそうにラスを窺った。
相変わらず吹雪だし、初めは結構な速さで進んだので、もう襲われる心配はない。
しかも、全くといっていいほど、視界は利かない。

だが、メリクは同じコアトルの上だし、サダルスウドはぴたりと横にくっついている。
方向がわからなくても、今向かっているところは、元々明確な場所もわからないところだ。
サダルスウドがいれば、おそらく感覚のみで辿り着けるだろう。

「大丈夫だ。傷のおかげで感覚が麻痺して、寒さもあまり感じない」

決して良いことではないのだが、ラスは口の端を上げて答えた。

「お前こそ、老体にこの吹雪はきついだろう。・・・・・・そういえば、お前は普通に寒さを感じるのだな」

ラスは言いながら、己の前のメリクに視線を落とした。
元々の薄着が、先のラスの手当で、さらに肌が曝されている。
裂いた裾からは、白い素足がむき出しだ。

神殿で修行した者ならではの特殊能力のようなものなのかとも思っていたが、サダルスウドを見る限り、そういうものでもないらしい。

「お前は、本当に寒くはないのか?」

ラスの問いに、メリクはふるふると首を振る。
ラスもメリクも、浴びた返り血は、吹きすさぶ雪に洗い流された。
再び白く戻ったメリクは、雪と同化しそうだ。
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