エルタニン伝奇
「姫君は、生まれ落ちたときから、凄まじい力を有しているのがわかりました。先にも申し上げましたでしょう。封じられたにも関わらず、成長を続けるほどの力が、この姫にはあるということなのですよ。今の、この姿が、それを証明しております」

ラスも氷の柱に眠る姫君を見上げた。
確かに、歳も同じ頃だし、産まれてすぐ封じられたのなら、ここまで成長するなど、相当な力だ。

ラスのコアトルが、ぎゃ、と鳴いた。

「そうだ・・・・・・。二体いたコアトルの、片割れはどうしたんだ。間違いなく、サファイアのコアトルだったのか? それなら、姫と運命を共にするはずだ。姫が生きているなら、コアトルもいるはずじゃないか」

ラスのコアトルは、他のコアトルと違い、美しいサファイアの瞳だ。
世継ぎの御子のために現れるコアトルの特徴である。

ぎゃ、ぎゃ、と鳴くコアトルを片手で撫でながら、ラスは己のコアトルの、澄んだサファイアの瞳を見つめた。

そして、はっとする。

覗き込んだサファイアの瞳に、氷の柱が映り込んでいる。
その中に封じられているのは、姫ではなく、一体のコアトル---

ラスが氷の柱を振り返った瞬間、メリクが悲鳴を上げ、いきなり柱が内側から砕け散った。
ぎゃっ! と鳴いたコアトルが、翼を大きく振って、降り注ぐガラスのような氷の破片を飛ばす。
コアトルの翼に守られて、ラスは腕の中で悲鳴を上げ続けるメリクを、黙らすように抱きしめた。

「落ち着け。どうしたんだ」
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