遠い夏から、あの頃のキミへ
部屋の外は、やっぱり段違いに暑い

下から立ちのぼるような、まとわりつく熱気が不快に感じる

きっと錯覚だろうけど、毎年、去年より暑いと感じるのは私だけじゃないと思う


駅前といっても、10分以上かかる距離はなかなか遠い

額にうっすらと汗が浮かんだ頃、お店の数がふえてくる
人の数も比例して増えてきた

程なくしてロータリーが見える
駅前にはファストフード店やファミレス、本屋、CDショップといったお店が建ち並び、賑わっている

そんな駅前の横
木陰になったベンチに、私と待ち合わせをしていた人物が座っていた

「遼平」
私が名前を呼ぶと向こうも気づいて、手をあげる

ブリーチした髪に軽そうな笑顔
なのに、(さすがに上着は脱いでいるが)スーツを着て

ホストのような格好
というか、この「押尾 遼平」はホスト意外の何者でもなかった

「よっ、久しぶり。元気にしてた?」
片手を軽く上げ、立ち上がりながら聞いてくる

「そう見える?」

「んー…、そんなには」なんて、臆面もなく言えるのが、この男の悪いところで、良いところでもあった

「まぁ、今は夏だからねー。明日花(アスカ)は夏が嫌いなんでしょ?」

「まぁね」

「今でも、まだ見るの?」
遼平は目を指差しながら聞いてきた

キッと、視線は知らずに険しくなっていたと思う
「まぁ、いいや」
沈黙の返答に、あっけなく引き下がる

相変わらずこの男はつかみにくい

「てか、大学生って9月も休みなんだって?」

「そうだけど、なに?」

「いいよなー、って話。社会人はとっくに仕事だよ?オレなんか今朝まで夜勤だし。貧乏、金なしってね」

「なんかキミが言うと信憑性に欠けるよね、その台詞」

「あっ、それヒドくない?」

「だって、こんな生活感ないヒトが言う台詞じゃないもん」

「ふーん、アスカはボクのこと、そんな風に思ってたんだ」
ジト目で遼平
それでも、すぐに笑って

「まぁ、事実だからしょうがないか」
そう言った

「さて、暑いからどっかお店でも行かない?」
脱いでいた上着を肩越しに担いで

「また変なお店じゃないでしょうね?」

少し前、遼平について入ったお店は、女装した男の人が働くお店だった

普通とは隔絶したようなお店のなかで、勝手も分からず、居心地の悪さといったらなかった
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