やさしいあめ
あれから、一週間と数日が過ぎた頃、帰り際、彼とばったりあってしまった。今にも降りだしそうな、曇りの空だった。「一緒に帰らない?」傘を手に、彼は言った。あたしは、彼の言葉には、なぜかうなずいてしまうみたいだった。彼の家は、高校のある場所の隣町だったため、バスで通っていたから、もちろん徒歩だった。あたしは、家から高校までは、自転車で20分ぐらいのきつい坂の上の家だった。あたしは自転車は持っていたけど、比較的家が近かったため、曇りだというのに、傘を持っていなかった。彼は、あたしの自転車を引きながら「雨降るかな?」と、言った。あたしは、彼と2人で歩き出した。歩き出して、5分もしないうちに、雨が降りだしてしまった。彼は慌てて、自分の傘をあたしに差し出すと、また、あたしの自転車を引き、歩き出した。あたしは「濡れちゃうよ!」と、慌てて傘を差し、返そうとした。でも、彼は「もう濡れてるから。」と、あたしに傘を返した。あたしは、彼の、雨に濡れた横顔の表情を見た。少し笑っていた。彼の、やさしさを感じてしまった。あたしは、一本しかない傘を閉じた。2人、雨の中、びしょ濡れになりながら、あたしも笑ってみた。「きもちいい。」2人には、とてもやさしい雨だった。
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