『ただ片想いに戻っただけなんだ』
浩と手をつないで、浩の言う美味しいお店まで歩く。



私はさっきの浩の言葉が気になっていた。



今日は奥さんは家にいないのかな。



だからそんな冗談を言ったのかな。



私が『うん』と言わないのを分かっていて言っただけなのかな。




浩は、この人は、何を考えてそういう言葉を発するのだろう。




『ここやで。入ろ』



浩はそう言ってドアを開け、私を先に通してくれた。



いつもそう。




『ここよく来る店やから、知ってる人がいたらどうしよ』




ちょっとだけ本気で焦っている顔。



今気付いたのか?!



そんな風に思いながらも、浩の顔を見ると、



浩は私を見て慌て、



『ま、別にいいよな』




と、きっと強がって、平常心を保とうとして言った。



私は何も言わずに口元だけキュッと上げておいた。



バーカ。




でも、そんなところも悔しいけど好きだ。



だけど、内緒。



私がこんなにも浩のことを好きだということを、




浩には、内緒。




私はまだ言ったことがなかった。




浩に、「好き」という二文字を。





『実久、肉好きやろ?地元のうまい肉食べてみるか?』



『食べたい!!』



そう私が即答すると、



『食いしんぼう』



と、優しい笑顔を見せてくれた。





そして浩が言うように、ホントに美味しいお肉だった。




『柔らかくて美味しい』




私が感激しながら一枚一枚大事そうに食べていると、




『本間に美味しそうに食べるなぁ。肉そんなに好きなんか?』




浩が自分のお皿からも、私のお皿にお肉を運んでくれながら尋ねる。



『うん。それにこのお肉、特に美味しい』



私が答えると浩はすかさず、




『俺は実久の方が好きやけどな』



と、嬉しそうな顔で答えた。
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