HELLO
「えっ?」

私は聞き返した。

「婚約者?」

初めて聞いた言葉だと言うように、親太朗が聞き返した。

「実はな、ウチの新入りが院長先生に目ェつけられたことがあってん。

その子、結婚の約束をしてる人――いわゆる婚約者がいてな、院長先生にそのことを言うたんや。

婚約者がいるから無理や、って。

そしたら次の日から口説かれんかったって」

「なるほど…」

私はうんうんと首を縦に振ってうなずいた。

「もしかしたら、院長先生は相手持ちの子やったら近づかん思うねん。

だから杏ちゃんも婚約者がいると言えば…」

「あきらめる、って言うことですね」

「そやがな、さすが賢いわ」

「けど、どうすんの?

婚約者なんて、杏樹にはおらへんやろ?」

そう言った親太朗に百合子ちゃんは視線を向けると、ニヤリと笑った。
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