桜から君が降ってきた。
優ちゃんとか嫌なんだけど
春、爛漫。
僕は車から降りると、あたたかな陽を浴びて思わず伸びをした。
草むらの新芽が目にまぶしい。
微かに薫る、桜の香りが胸を満たしていく。
小川のおだやかなせせらぎが耳に心地よい。
どこかで小鳥のさえずりも聞こえた。
「いいところだろ、ここは。パパのふるさとだよ。」
パパも車から出ると、伸びをしながら大きく息を吸って、はいた。
僕は大きく頷いた。
「うん。ママやお姉ちゃんにも見せてあげたいよ。」
僕は、この春、パパの転勤に伴ってこの自然豊かな地方の小さな町に引っ越してきた。
僕がママやお姉ちゃんに『ついて来ないの?』と訊くと、『どうせ数年なら男ふたりでも大丈夫でしょ。』と、言いながら柿ピーをばりぼり頬張っていた。
今日から、パパとふたりきりだ。
ちょっと寂しいけど、わくわくするんだ。
「これが、僕の通う学校…?」
「そうだよ。自然いっぱいだな。」
目の前にでん、と構える大きな校門にちょっと慄く。
その門の向こう側に、煉瓦造りの大きな校舎が見える。
その校舎の周りに無数の桜が林立しているのも見える。
「明日からがんばれよ、優(ゆう)。」
パパが僕の頭をくしゃくしゃにして撫でて笑った。
「うんっ」
僕もパパに笑い返した。