桜から君が降ってきた。
「…それで、おじいちゃん、登ったらしいのよ。一番上まで」
「え、幹が細いから危なかったんじゃないの?」
「おじいちゃん、周りの男の子に比べてかなり体がちっちゃかったらしいの」
かすみちゃんはちょっと申し訳なさそうに肩をすくませた。
…あー、なるほど……。
僕はがっくり肩を落とした。
「…で、なんとか落ちることなく一番上まで行って夕暮れを見たんだって」
僕は頷いて先を促した。
「涙が、こぼれた…って、言ってた……」
「涙…」
僕は無意識にその言葉を反芻していた。
「悲しいとか、そういう訳じゃなかったらしいんだけど、涙が自然とこぼれてたって。」
かすみちゃんは肩を縮めて力なく笑った。
「だから、優ちゃんになりたいなあって。お父さんも登って見たんだって。『あたしも登る』って言ったら、危ないから女の子はダメだって…」
かすみちゃんは泣きそうに見えた。
「桜が満開のときが、いっちばん綺麗なんだって…」
かすみちゃんは目を静かに伏せた。