桜から君が降ってきた。
満開のとき
「よいっ…しょっと」
僕は今や満開となった大桜の一番低い枝に手を掛け、幹に足を押し付けた。
「うゎっ…!」
が、ずるっと足が地面に落ちて身体全体がぐらりと揺れた。
それに従って腕に身体の重さがかかってきて、びっくりしてパッと枝から腕を放した。
「いった……、何でみんなこんな事簡単に出来ちゃうんだろ…」
手のひらにくっきりと残った樹皮のかたちを渋い顔で眺めた。
ふと、昨日のかすみちゃんの泣きそうな顔を思い出した。
「……よし、もういっかい…」
僕はみんなが軽々と木に登っていく様子を頭の中でイメージしながら、再び枝に手を掛けた。
「…っと、」
いったん、ナマケモノみたいに枝にぶら下がってから、近くにあった枝をつかんで上体を起こした。
視界が正常に水平な状態に戻った。
「おぉ…」
地面が自分の足よりずいぶん下の位置にあることがとっても不思議なことに思えた。
「よしっ」
枝の上に立ち上がって次の足掛かりになる枝へ足を掛けた。