桜から君が降ってきた。
最後のと思われる枝は、確かに今までのに比べると格段に細くどちらかと言えば新しい方だった。
「かすみちゃんから。」
僕は手でかずみちゃんを促した。
どうでもいいけど、ちゃんと『レディー ファースト』に気づいた事を褒めてほしい。
かすみちゃんは「ありがとう」と言って、その枝に足を掛けた。
「わ……」
その高さだけ桜の花が無く、きれいに町を一望できるようだった。
かすみちゃんの横顔が、オレンジともピンクとも紫とも言える不思議な色に照らされた。
そのかすみちゃんの大きな瞳が、微かに揺れている。
少しして、かすみちゃんは我に返ったようにまばたきを繰り返し、枝から降りた。
僕は、はっと息を呑んだ。
かすみちゃんが微笑んで僕を促したとき、一筋の雫が頬を伝ったのを僕は見てしまったからだ。
僕は顔を上げて枝に足を掛けた。