桜から君が降ってきた。
「はい、じゃあ鈴木くんの席はあそこだから。」
先生は、さっき最初に笑い出した女の子の隣の空いている席を指差した。
一番窓側の列の一番後ろという、なかなかのポジションだ。
はい、と小さく返事をすると、壊れかけのロボットのようにギクシャクとした歩みでその席に近付いて行った。
その間も、クラス中の生徒の好奇の視線を感じた。
誰かが「かわいー」と言って、それで何人かがクスクスと笑ったから、また汗が噴き出してきた。
「よろしく。鈴木くん。」
席に座ると、さっきの女の子が こっちに顔を向けて軽く会釈をしてきた。
さらり、と指通りの良さそうな肩くらいまでの黒髪が揺れた。
ガシッと胸の辺りをわしづかみされたような気がした。
「あたし、乃木(のぎ) かすみっていうの。」
彼女の大きな目が僕を捉えた。
強力な引力によってひきつけられるように、僕はその黒い瞳から目が離せなかった。
「よ、よろしくお願いします…。」
僕は、すごく、阿呆な顔をしていたらしい。
彼女__かすみ、ちゃん、はくすっと笑って前に向き直った。