☆ハイローハート
「でもすごい丁寧に手紙書いてくれたし」

「だからって簡単に家の場所教えんなよ
声かけられてフラフラついていくよりタチ悪いし」

「……さやかと、何かあった??」

「は?」

「なんでそんな怒ってるん?」

「怒ってねーよ、あきれてんの」

「でも理一はいつもそんな言い方しないやん……
さやかと何かあったん??」

「別に何も?
仲いいよ、つきあいたてだし」


アタシは「そっか」と手の中のピンクうさぎを見つめた

ポーンとエレベーターが止まる音がして、スーツを着た小柄な男の人が降りてくると隣の家の鍵をあけている

アタシが軽く会釈しても、向こうはこちらを見もしなかった


「早く入れよ」

と言われて、鍵をさしこみドアをあける

「じゃーな、チェーンしろよ」

「うん、ありがとう」

ドアをしめてチェーンをかけると、理一が遠ざかっていく足音が聞こえた



その足音はちっとも怒っていないけれども、アタシが飲み込めない切なさを置いていく

“簡単に家の場所教えんなよ”の言葉が心を押しつぶす

理一の中のアタシは、どんな女?

引越して、同じ間違いは繰り返さないと決めていたのに、結局かわらない

アタシは簡単に理一を家に入れて
国坂くんに家の場所を教えた

――今も耳に残る声

“この間アイツ、諸岡の家に入れてもらったって”
“うそ、じゃーヤッたんや??”
“勉強教えたるって言ったら一発で入れるって”
“じゃあ俺らでもヤレるんちゃう?”

彼らは知らないの

24時間を何日も、何ヶ月も、何年も一人で過ごす部屋の冷たさを
人の温度が加わる温かさを
その先にあるのが例えセックスだけだとしても……


アタシは一つ咳をして、バスタブにお湯をためた


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