☆ハイローハート
「すごく久しぶりじゃない?
こうしてゆっくり二人の時間があるのって」

「そうだね」

……ずっと、逃げてたから

少し前を跳ねるように歩くさやかの背中を見ていた

バイトの日にちをかえてもらって、部活もバイトもない日を無理に作ると彼女を誘い出した

さやかを送っていくいつもの通り道

人肌が恋しくなる温度の風が吹くたびに襲ってくる焦燥感
通り過ぎた雑貨屋さんのショーウィンドウにクリスマスのデコレートがされていて、それを嬉しそうにみたさやかの横顔から目をそらした


クリスマスは、一緒に過ごせない


信号がちょうど赤になって、横の歩道橋に向かった

17時をすぎると辺りも薄暗くなってきて、陽の短さはますます冬の気配を濃く感じさせる

2~3段上を行くさやか

うつむきながらその後を追う俺


一番上まで上りきって、歩道橋の真ん中あたりまでくるとさやかはクルリと振り返った

今日は毛先を巻いてなくて、ストンとした髪を邪魔にならないようにクリップで留めているだけ

遊んでほしいとアピールする子犬のように目をキラキラさせながらこちらを見た彼女は、両手でカバンを持つと「ね、前に一緒に行った公園に寄り道しない?」と体を傾けた


歩道橋の下を大きなタンクローリーが通過して、揺れたように感じる

大通りではないけれど、車の通行が絶えない道路

一定間隔ですぎていく車のライトを横目に感じながら、俺は「……さやか」と呼びかけた


告白するよりこっちのが勇気がいるじゃん

好きっていう方が何倍も楽


「ごめん、……別れてほしい」


さやかの顔から全ての感情がフッと消えて、彼女は小さく左右に首を振った


横断歩道が青になったことが聴覚だけでわかるように、機械的な鳥の鳴き声が周囲に響く


「……いや」

< 292 / 756 >

この作品をシェア

pagetop