☆ハイローハート
生と死が混在する病院の匂いは、どこか肌寒いのにどこか気分が落ち着く感じがする

鎮静作用もあるんだろうか


駆けつけたさやかの母親は俺を見るなり「あなた、理一くんね……さやかからいつも話は聞いているわ、病院まで付き添ってくれてありがとうね」とものすごく穏やかな口調で頭を下げた

「……いえ、一緒にいたのに助けられなくて」

「まさかこの歳になって階段から派手に落ちるなんて思わないもの、不可抗力よ」

と言ってくれたけど……

それからしばらくして来た父親は俺の姿を見るなり不快感をむき出しにした


「どうせこの男が、さやかの嫌がることでもしてさやかは逃げようとしたんじゃないのか!」


返す言葉も無くてただうなだれるように頭を下げていると、あらゆる処置が終わって意識のないさやかを乗せたベッドが病室へ運ばれていく

外科病棟まで運ばれるのを彼女の両親は医師に話を聞きながらついていき、俺もそのまま帰るわけにも行かず少し後ろをついて歩いた


「目立った外傷もありませんし左腕の骨折だけですんだので、それが治るとほとんど傷も全てなくなりますよ」

医師の話に、ホッと息をついた

「先生、意識は戻るんでしょうか?」

母親は心配そうにさやかの顔をのぞきこんでいる

「一応脳波の検査などはしたほうがいいですけど、これは頭を強く打った衝撃で意識をなくしているのではなく、ショックのため意識を失っているのに近いと思います
しばらくしたら気付かれると思いますよ」

「そうですか……」

「意識が戻ったらナースコールを鳴らしてください
一度また診察しましょう」

「宜しくお願いします」

さやかの両親が医師に頭を下げるのと一緒に俺も頭を下げた


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