☆ハイローハート
アタシがオートロックを開錠すると、また並んでエレベーターへ向かう

「帰ったらメールしてみたら?明日も一緒にどう?って」

「……緊張する」

「あっそ」

「だって、もう、めっちゃ子犬みたいでふわふわして」

「昨日聞いた」

のろけだしたから、言葉を途中で切ってやった

男だけど“恋する乙女”って表現が似合うよ……

横でエレベーターを待つ彼の姿を盗み見ると、アタシより少し身長が高くて、学ランのボタンを上半分あけている

昨日は襟足の髪がはねてたけど今日ははねていないところをみると、昨日のは寝癖らしい

やわらかそうな髪が首に沿っていて、前髪はふわりと目にかかりそう

……この人も、犬っぽいけどね
なんか、ゴールデンレトリーバーっぽい

犬どうしでお似合いカップルなんじゃ?という言葉はあえて言わなかった

うまくいくとも限らないし、と妙に冷静に考えてしまう



チンと昭和な音を立ててエレベーターが1階に到着したと同時に背後から明るい声が響いてきた


「あっら~~、理一~~」


アタシ達が振り返ると、エコバッグを二つ持って後ろで髪をひとつにまとめたおばさんが立っていた

???と思っていると、理一が「母さん」と短く紹介してエレベーターに乗り込んでいく

エレベーターの中で「こんにちは」と笑顔で会釈すると、重い袋を一つ理一に手渡したお母さんがアタシを見ながら

「理一の彼女??……かわいらしい子♪」

とひやかした

「残念だけど、彼女じゃないよ、ここの5階に住んでる子

あこと一緒の学校なんだって」

「諸岡みさきです

理一くんは、もっとふわふわで子犬みたいな女子が好きらしいです」

「きみは余計なこと言わなくていいから」


あっという間に5階に到着して、「お先でーす」と一人エレベーターを降りた

閉まりかけのドアから理一のお母さんが「関西の子?」と彼にたずねている声が聞こえた


関西弁のイントネーション、なるべく控えてるつもりだけど、そこここに散らばってるらしい


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