☆ハイローハート
俺も入学したての頃ってあんなに騒々しかったっけか

窓から入ってくる風には新緑の香りが強く混ざっている

二階から見下ろす新入生はどこか浮き足立ち、中学生の匂いがまだ抜け切らなくて、見ているこっちが気恥ずかしくなるように若々しい

って言っても一つしか年はかわらないんだけど

クラス替えではまたとよきと一緒のクラスで、そしてまたナルとは違うクラスになってしまった

皮肉なことに、さやかも一年間同じ教室で同じ時間を過ごすことになって、俺は複雑な心境で新しい担任のセオリーどおりな青春論を聞き流していた

このクラスのほとんどの男達がさやかと同じクラスになったことを少なからず嬉しいと思っているはず

そして、そこに俺がいることを多少なりともうっとうしいと思っているはず

……別れたということはまだ知れ渡っていないけれど、きっと時間の問題だ


そこいらのカップルがくっつこうが破局しようがさほど噂にはしなくても、さやかのこととなると話は別

こぞって男達が次の彼氏候補に名乗りをあげるはず



休み時間にとよきがケータイを見ながら鼻を鳴らしたから、そちらを見た

「何?」

「ん、いや……あこからメール
MJと諸岡と一緒のクラスになったらしい」

「へえ」

「メールのテンションがすげー高いから笑えるんだけど」

「あこととよき、仲いーねー」

「……
きっとあこと諸岡をMJが上手にさばくから、体よく一緒の教室に放り込んだんだな」


仲いーねーって言ったところはスルーか


突然イスに衝撃がきて、その直後コロリと女子が転がってきたから「うお」と驚いた声をあげた

組んだ足にひじをついて「大丈夫?」と声をかけると、栗色のやわらかそうなショートカットの頭がくるりとこちらを見て恥ずかしそうに頬をピンクに染めて微笑んでいた

「ごめんね、イス蹴っちゃった」

「いや、俺は大丈夫だけど
キミ、ものすげー派手にこけたよ?」

手を差し出すと、「そそ、そうだよね、はずかし!」とその手につかまって立ち上がる

照れ隠しなのかほこりのついたスカートをパンパンはたいて、豪快に俺らの視界が白く煙った

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