☆ハイローハート
コンビニの袋をぶら下げた理一が、ズサズサとコンクリートを擦るような足音を立てて駐輪場の前を横切っていくのが目の端に見えて(わ!!ギブアップ、ギブアップ)ととよきの背中をトントン叩いた

ふっとキスが止まって、唇が離れるけれど至近距離で止まったまま


やっぱり人が動く気配を感じたのか、理一が目を凝らすようにこっちを見るのがわかって顔を背ける

とよきはアタシを抱きしめる腕をゆるめないから体をもぞもぞ動かすけど……しっかりキメられて1ミリすら離れられない


アタシの様子でとよきは駐輪場の入り口に気付いたみたいで……パッと手が離されると予想したのに

あろうことかその体勢のままとよきは「よお」といつもの調子で声をかけた

「よっ!」

と軽い理一の返事の後、またズサズサと遠ざかって行く足音


……え?それだけ?
理一、行っちゃったの?


と首を動かすと、注意喚起するように背中にまわされた腕に力が入って、再び唇が合わさった


……そうなんだ

……そうなるんだ

……そう


力が抜けて行く

とよきの両手がアタシの顔を押さえるように耳にあてられたから、周囲の音が途切れてますます意識が一つに集中する


長い長いキスが終わると、とよきは唐突に「帰るわ」と言い出した

「え?6時間も待ったのに、もう帰るの?」

「……いや、俺、今お前の家に入ると……」

「何?」

「男はすぐHする方向に持っていこうとする……とかお前が言うから
俺別にがっついてないしって……って所を見せようと、思って」

……へえ

「思って……たんだけど、なんか無理っぽいし」


ロマンチックとか、ムードとかって言葉と無縁なのね


「6時間もお茶してたならいらないかもしれないけど、お茶くらい飲んで帰ったら?」

「ん、じゃ……そうする」


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