☆ハイローハート
「俺も、おかげでメールというものを使いこなせるようになった」

みさきは片付けているのか、引き出しを開けたり閉めたりする音がする

この空気を割って入る度胸はない

MJがゴミ袋を片手に持ったまま固まっている俺のそばにまでやってきた

いつも勝気な彼女のこんな目はみたことがないってくらい、その目は深海のように静かで光が届かない

浮上したくても、どちらが上かわからないんだ


室内からの声は止まない


「一年ぶりに会って確信した
俺、みさきちゃんがやっぱり好きだ
……で、
付き合ってほしい」


やっぱりこの小さい占い師は少し未来が見えてんのか

俺より頭一つ分以上低い場所から血管が透けるほど透明な腕がのびてきて、頭を撫でられた

いじわるなMJが優しくしてやりたくなるほど悲愴な顔してんのかな


みさきはいつだって、素直にうなずかなかった

俺の前ではいつも悩んだり、首を振ったり、反抗ばっかりしてたくせに……


「うん、……うれしい」


って、なんでそんなに簡単に受け入れるの???

俺をなだめるようなMJの手を取ると、ゴミ袋をその手に置いた


いれない、ここに

みじめすぎる


ほとんど無意識に靴を履いて玄関のドアをあけると、あこが「あっぶな!いきなりあけんな!!」と怒ったけど、ごめんすら言えずにその横をすり抜ける

「理一?」

一瞬で空気を読んだことがあこの声のトーンに表れる


非常階段をかけあがって6階に出ると、俺の家の中からナルが出てくるところが見えた

「よ、理一、今から5階に降りようと思って……」

俺のあとを追ってきたとよきが顔を出すと、ナルは「お、とよきも来てたんだ」と軽く右手をあげた

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