☆ハイローハート
「じゃーね龍一、バイバイ」

みさきは振り返って龍一に手を振ると、「理一もバイバイ」と狭い玄関で俺の横をすり抜けて行く

慌ててみさきの後を追った

「飯くっていかねーの?」

「あー、うん、今日はね……今からデート」

え、こんな夜から??
危ないじゃん……

非常階段にどんどん近づいて行くみさきを必死で呼び止めた

「みさき」

「ん?」

「河川敷でさ、花火大会があるんだよ」

「へえ」

「この辺じゃ有名」

「そうなんや、デートにいいね」

裏表のない表情で俺を見て微笑むから、(そーじゃなくてっ!)と内心焦った

なんでこんなにうまく口をきけないんだろう
誘い方なら知ってるし、みさきがすっごい気さくな女ってわかってる
なのに、彼女の変化する表情を見ているだけであらゆるセリフが飲み込まれて、何一つ伝えられないんだ

二度とみさきを傷つけたくなくて、悲しい顔をさせたくなくて
言葉を選ぶ

どうすれば笑ってくれる?
どうすれば喜んでくれる?

「俺、キレイに見えるスポットとかすっげー詳しいから……一緒にいこっか」

「もう~、なんでアタシ??
彼女誘いっていっつもゆってるやろ??」

「……え?彼女??」

俺の反応にみさきが止まった

「さやかのこと言ってんなら、俺もう別れたよ?」

ボリュームと長さが強調されたまつ毛が何度もパチパチとしばたたかれて、彼女は俺のセリフの意味を理解することに時間をかけた

言った当人はその沈黙に耐え切れない
気まずくて口を閉じ、視線すら上げてられずどんどんとうつむいて、更に口をぎゅーっと閉じた

何か、反応を……

緊迫した空気を破いてくれたのは、どこかの階のドアが開く音や何かを知らせるように短く鳴くカラスの声


「……なんで」

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