☆ハイローハート
通りすがりにある動物美容専門学校の一階は少しハイランクのペットグッズショップになっていて、とよきはガラス越しに中を見ていた

「何か買う??」

「いや、この間カブには何十缶とプレゼントしたから、さすがにまだあるだろ」

「ふーん」

痛い太陽はアーケードに遮られているけれど、室内ではないから暑い

大きな家電屋の前で宣伝代わりのミニうちわを配っていて、とよきが俺の分ももらってくれた

なんかのキャラが書いてあるうちわ

スポーツバッグの中に入れていたペットボトルのお茶を思い出してそれを飲んでいると、とよきがダイソンの羽なし扇風機の展示品を見つけて「これスゲー」と手を入れている

“完売いたしました”と貼られてあって、んじゃ展示すんなよって思うんだけど

「これ羽がないからさ、扇風機の前で風呂上りに“ア゙―――”ってできないじゃん」

と俺が中をのぞきこむと、その向こう側とこっちでバッチリ目が合ってしまった

……会いたくない人に


「不思議だよね、これ」

と話しかけられてしまう

まともに話すのは多分はじめて

空港で会った時は言葉をほとんど交わさなかったし

二度目に会ったのは、俺が勝手に見ただけだし

国坂は「このエアマルチプライアーの仕組み、知ってる?」と笑顔ではないけれど気さくな感じで言ってくる

めがねの奥は理知的な漆黒の目

淡いブルーのシャツにネクタイが緩く締められている

制服までこじゃれてて、なんか不愉快


「風はこのリングの内側にあるスリットから出てくるんだ
それが外側から取り込んだ空気を巻き込んで扇風機のように風を流す」


「へえ、そうなんすか」

ととよきはリングの内側をのぞきこんでスリットを確かめている

「機械自体が出す空気は全体の10パーセント以下、90パーセント以上は外の空気ってわけ」

……なんでそんな詳しいんだ

女に“わーすごい”って言われたいってやつ??

俺はちょっと鼻で笑うと、「行こうぜ」ととよきに声をかけた


「青いバラ」

国坂が突然言い出して、俺は「は?」と足を止めた

「見たことある??」

「バラに別に興味ないですけど??」と答えると今日はじめて、国坂が笑った

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