☆ハイローハート
歌ったり、マイクを使って会話したりしていると、部屋のドアがガンっと開いた


広い肩幅の学ランが目の端にうつりテレビ画面の前を横切ると、あこの横にどさっと座る

短髪でも長髪でもない髪が少し濡れているような

男がいきなり大きなあくびをしているのを見て、あこがくすくす笑っている

「とよきも部活?」

「おお、終わってすぐ来た、あいつらまだ?」


そうだ、サリーって猫を肩に乗せてた“とよき”だ


アタシはマイクで「おつかれ!で、何部?」ときく

とよきはあこに「なんであの子マイク使って話すの?」と聞いているけれど、あこはすかさず自分の持っているマイクをONにした


「何部ですか?」

芸能リポーターのようにあこが言い、マイクをとよきの口元に寄せている

「……水泳部、です」

マイクを通して部屋に響く、低音ボイス

「やはり、女子の水着姿目当てですか?」

面白そうにあこがマイクをとよきに寄せると、彼女の額がぺちっと気持ちよく鳴る

とよきのデコピンの威力で、あこはおでこを押さえて悶絶していた

その姿を笑いながら見ているとよきの表情がめちゃくちゃ優しくて、アタシの頭にふわりとある考えがよぎる

……なんか、この男

とよきがズボンから携帯を取り出して「はいはい」といきなり話し出す


「ん?俺、もう到着してる」


と彼が答えた瞬間、再び勢いよくドアが開いて、外の音が流れ込んできた


「よっ!」

朝見た格好と同じナルと理一が顔を出す

相変わらず重量のありそうなスポーツバッグを足元に投げ出すと、アタシを挟んで座るもんだから突然威圧感

ナルがなついてくる


「ねね、“おつかれさま、みさき寂しかった”って関西弁で言って」

「イヤ」

「最初はグー!じゃんけん!!」

突然のナルの大声にびっくりして慌ててじゃんけんに応じて、あっさり負けてしまった


「はい、負け
“おつかれさま、みさき寂しかった”どうぞ」

……

「おつかれさま、みさき寂しかったわ」

「うわ、棒読み、アウト」

アウトもくそもないってば……


それから怒涛のように男達に男くさい曲ばかり選択されて、濃い時間が過ぎていった



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