☆ハイローハート
アタシが食事に全く手をつけていない事にか、はたまたこんな状況なのに娘を置いて店に出る親を持ったアタシを哀れんだのか、おじさん刑事が悲しそうな顔をしたその後ろ、若い刑事はしきりに黒くて小さいノートのページを繰っている


「体調どう?」

「そんなことどーでもいいんで、早く終わらせてください」

「そうか……じゃあ、覚えてるところだけでいいから答えてくれるかな」


おじさん刑事が主に話すらしい


「隣人とは会話を交わしたことあった?」

「2~3回あると思います」


…………

質問は隣人がアタシにどんな態度だったかと、どうしてその日アタシが隣人宅に自ら入ったのかということに変わっていき……

いやでも状況が甦ってくる


「セシル……
アタシのことをセシルって思ってるみたいでしたけど」

「ああ、そうだね、うん、今でも君のことをセシルと呼んでいる」


『セシルじゃねー』
『みさきに何してくれてんだよ』


もうダメだって思ったの

何がダメかはわからないけれど、何か大切な物を失ってしまうんだという漠然とした失望と恐怖

どう考えたって、アタシが隣人宅に閉じ込められているなんて誰も気付いてくれない

アタシがいないということに気付いたって……アタシの居場所までは絶対にわからないに決まってる

なのに

武闘派じゃないくせに……

1人で乗り込んでくるなんて……


目が覚めてからずっと……理一のことが聞きたくて、理一にところに行きたくて

心だけがアタシの体を離れて彼を探しに行ってしまいそう


あの時閉じこめられた部屋で、壊れかけていたアタシの心を守るように聞こえてきた理一の声が今も肌を撫ぜる

ダメやっぱり、思い出すだけで、理一のことを考えるだけで、恐怖の下敷きになってしまう

ベッドの上で三角座りするように立てたひざにおでこをおしつけると、掛け布団に目を押し付けて泣くのを我慢した


< 669 / 756 >

この作品をシェア

pagetop