☆ハイローハート
室内よりも窓の外の方が暗くなって、若い刑事がカーテンを引く

こんなに何もない部屋で、真っ白な色に囲まれて、夜の静けさがやってきたらどうしよう

体はどこも痛くない

どこか痛んでくれれば、こんなに胸が痛くて苦しいのが紛れるのに


いっそ大泣きして全て出してしまえば痛みは取れるのかな

だけどただ静かににじみそうになる涙を目を強くおさえつけることでごまかす
まばたきをする度に水分はただ目を潤す液体と化す


音を抑えるかのように控えめにドアが開く音がして、看護婦さんが取調べをそろそろ終えるように言いにきたんだと思った


だけど掛け布団に押し付けた顔をそのままに、ベッドに絡みついた思念に身を沈ませる


「みさきちゃん」


と優しく優しく呼ばれて、パッと顔をあげるとそこにはいつもと変わらない理一ママ……の顔がみるみるくしゃくしゃになっていく


「よかった、みさきちゃん」


と泣き出したママがポスポスポスと空気を含んだ足音を立てて駆け寄ってくるとアタシにぎゅうっと抱きついた

薬品の匂いばかりが鼻についていたのに、一気にやわらかい匂いがアタシを包む


ママが泣きすぎてて、もらい泣きの涙がまつ毛を濡らしそうになるから少しあごをあげて物理的に邪魔をした

冷たい印象の白壁が、柔らかい真綿の色に変化する

アタシの気持ちひとつで景色はかわるの、本当に


そう

理一がいれば、静かで暗い部屋でも不安なんて感じなかった……


幽霊が出るかもしれん鳥肌モンの部屋でだって、理一がいてくれれば眠れたの


はじめて抱きついた理一ママの背中はふわふわで、まるで幼稚園くらいの子供になったみたい

絵本を読んでるみたいにドリーミングな気分


「ママ、たまごやきが食べたくなった」

「何百個でも作ってあげる」


そう答えてアタシを更に抱きしめる腕はきつく締められているのに柔らかいから、目を閉じてその温もりに浸る

幼い頃、お迎えにきた母親に抱きしめられているお友達を横目で見ていたアタシが微笑んだように感じた

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