☆ハイローハート
若い刑事が咳払いをして、ママが顔をあげた


「目覚めたばっかりなのに、取り調べですか??
もう、今日は遠慮してもらえます??」

「ちゃんとナースと彼女の母親には了承を得たんですけれどね」


と若い刑事が身の潔白を主張したけれど、ママの前では何も意味しなかった


「彼女は被害者だし、まだ未成年ですよ?
もっともっと考慮してくださらないと」

おじさん刑事は(まあまあ)となだめるように両手を動かしながら「そうですね、また日を改めます」と穏便に穏便に話すと、アタシに微笑んでうなずきながら軽く手を挙げ出て行った


やっと、自分の呼吸ができる


ベッドサイドのスツールに座ったママは、理一が近所に行く時のスリッパを履いている

アタシのその視線に気付いて、自分の足先をママがじっと見つめるから不安がよぎる


救急車のサイレン
壁の向こうのナースの声

小さく小さく潜めた息


「理一、は??」


自力で立っていられなくてアタシに全身を預けた理一の重みよりも、もっと心は地下の奥深くに沈んでいる

誰かに両足をつかまれたみたいに背中が寒くて、自分から聞いたのに両耳を塞ぎたくなる矛盾

泣かないよ

何を聞いたって泣かないの


アタシは泣かないことで悲しさを寂しさを、孤独を、感じずに生きてきたんだもん


それは今までだって、これからだって変わらない

傷ついたって、痛くったって、泣かない


泣くと不幸がやってくる

泣くから不幸はやってくる


泣かなければ、不幸を感じない……でしょ??

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