☆ハイローハート
重そうな花瓶をゴトリと置くと、少しくたびれたようにママが理一のおでこに手を置いた


「もうそろそろ目を開けてくれたらいいのに……」


布団からのぞく点滴の痕だらけの理一の腕がかわいそう


ママは理一の顔を見ながら「理一、みさきちゃんが退院しちゃうよ??」と呟いた

それから夕方まで理一の病室に居て、ママと一緒に病院を出る


アタシとあこはケータイショップ

ママは買い物に行ってしまった



秋は好きな季節

肌はべとつかないし、おしゃれも楽しめるし、日焼け止めを全身に塗りたくる必要もない

それにアタシのバースデーがある

夏が終わって涼しい風が吹くと胸がときめいて、ちょっぴり切なくて、人恋しくて


だから、こんなに不安で寂しい秋の訪れは初めて


紅葉の予兆を見せる木々が葉をこすり合わせる音にすらウキウキしていたのに、どうして今はこんなに不協和音に聞こえるの?


建物の壁を走る風は痛そうに尖った音を出すし、ぴたりと風が止むと夏の名残が舞い戻ってくる


すれ違う人々がまるで別世界の人みたい

笑顔も話し声も動く姿も、テレビの画面を通してみているような錯覚に陥る


空を四角に切り抜くとぽっかり空間ができて、そこから伸びてくる大きな腕がアタシを明日に連れて行く


タイムスリップ

テレポーテーション


現実の時間の流れに適応することを拒んでいる

ずっと

ずっと




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