☆ハイローハート
エレベーター前で立ち止まっていると「退院おめでとう」とおじさん刑事はまた子供をあやすような口調でアタシに話しかける

返事をするのが憂鬱で黙っていると

「こんにちは」

とアタシより先にあこが返事をしてくれた

あこも確かにあの場所に居たから、彼女もまたこのコンビに事情聴取されたのかもしれない


「病院で退院したってきいて、こちらに寄らせてもらった
今から少し話きかせてもらっても大丈夫かな??」

「……はい」


あこが持ってくれていた小さなバッグを受け取るとき、彼女が小さい声でアタシに言った


「大丈夫だよ、この間アタシの所に事情を聞きに来たとき、アタシの両親が弁護士してるってさりげに釘さしておいたから、きっと丁重に接してくれると思う
それでも不安なら、ママかパパに立ち会ってもらうように頼もうか?」

「ううん、平気
だって、アタシに非はないもん」

「そうそう、だから大丈夫
何かあったら電話して」

5階に止まったままのエレベーターに乗って、あこは上がって行ってしまった



ゆっくりと刑事さん達の元へと進んで行く



玄関に近づけば近づくほど心臓が騒ぎ出す

血の気が引くのがわかる


また玄関のドアにメモが貼り付けてあったらどうしよう

あり得ない

わかっていても不安が消えない


そのせいで理一は目覚めない

アタシのせいで、理一は……


冷や汗と動悸

あの日、アタシを探す理一の声が聞こえているのに、口に詰められた自分自身の靴下に声は全て吸い取られて絶望感に唸るだけだった

誰にも届かない、聞こえない

強がったり、なんでもない振りしたり、ごまかしたりする言葉しか発さない喉

肝心なときにこんなにあっさり使い物にならなくなるなら、最初からいらない

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