ブランコ
顔が大きく引きつったのがわかった。
慌てて顔を背けるが、動揺を隠せない。
…彼方は悪くない…彼方は悪くない…
気になるのは、仕方のないことだ。
けれど、冷静になろうという心とは裏腹に、思い出したくもない過去を思い出したことで感情が先走って
「…彼方には、関係ない」
人形のように無機質な眼差しで彼方を見つめながら、底冷えするほどの冷ややかな声で
そう彼方に吐き捨ててしまった。
後悔なんてしても遅い。
一瞬ハッと彼方を見上げ、その驚きと少しの悲しさに包まれた表情を目に入れると
ズキッ……っと胸が痛んだ。
その訳の分からない痛みと後悔に舌を打ち、その場を走り去る。
やってしまった…。
あんな事、言う筈じゃなかった。
あぁゆうのは、ほっといて流してしまえばよかったのに。
彼方に……あんな目を向けてしまった。
悪くないのに。悪くないのに。
まだ…振り切れてないんだ。
あの人を、過去を、痛みを。
なにもかも押さえ切れてない。
強くなったと思ったのに。
乗り越えたと思ったのに。
全然……ダメだ…。
はぁはぁっと肩で息をしながら、ガチャガチャっと乱暴に玄関のドアを開く。
思いっきりドアを閉め、ぐるぐるした頭を落ち着けるように目を閉じドアへて背中をつけ、もたれかかる。
「……はぁ…はぁ…」
なんで…こんな。
足が力を無くし、ズルズルと背中をすべらせ座り込む。
もう…ヤダ………。
さっさと…楽になりたい…。
いつの間にか小刻みに震えていた体を抱きしめ、目を閉じた。
途端、
一筋、頬を滑るように涙がつたった。