ブランコ

｢今まで……笑う場面がなかった……？｣


俺はつぶやいた。


……え？


……理解ならできる。

言っている意味なら分かる。


でも…。


感情がついていかない。


笑顔になる場面て…ありふれてるだろ？


そんな中で……一度も、たった一度も笑ったことがない…？


無意識に両手を強く握る。


俺…なんて無責任なことを…。

今更、事の重大さがわかるなんて…。



………最低だ。


｢どう思た？｣


静かな口調で咲斗は問う。


｢……え……？｣


｢別にな、彼方が蒼空ﾁｬﾝにどんだけ非道なことを言ったとしても、俺は責めへんよ。……彼方わ蒼空ﾁｬﾝを好きになる資格がないとか、彼方じゃ守れへんとか、そないな事思わへんし、言わへん｣

｢……？｣

｢ただな…、この話し聞いてどう思た？｣


俺は咲斗が言いたいことがまったく分からなかった。


｢……驚いた｣


素直に思ったことを言う。


｢………それで？｣


咲斗が先を促す。


……それで？


咲斗は俺に何を言って欲しいんだ？


｢……驚いたって言うんは彼方のことやろ？………蒼空ﾁｬﾝのことどう思たか、って聞いとるんよ｣


静かに、でもよく通る声で咲斗はそう言う。


その時、さっきまでいろいろ考えていたことが嘘のように胸の中からたくさんの言葉が消えていった。


咲斗の言葉でいつの間にかなくなっていった。


たったひとつ。


俺が蒼空に対して思った、たったひとつの感情を残して。