ブランコ
―――…
「……あのー……えっ……と……」
彼方が頭をかいて、空中に視線をさまよわせながらなにかを言い出そうとしていた。
「……」
私は何も言わず、ただじっと彼方をみていた。
「……ゔ」
逆に言いにくいみたいだ。
私はため息をつきながら
「家、入れば?」
と、彼方をうながした。
彼方はあからさまにホッとした様子で小さく“お邪魔します”とつぶやき、家に入っていった。
私は後ろ手でドアを閉め、彼方の後ろからついていく。
「蒼空、リビングここ?」
「うん」
そう言って、私はドアを開けた。
「……」
リビングの中を見た瞬間、思いっきり顔がゆがむのが自分でもわかった。
「おい…お前らに常識はないのか…」
隣で彼方も呆れながら首をふった。
リビングでは先に入っていた2人が、それぞれすごくリラックスした態度で、勝手に人の家のテレビを見るなり携帯をさわるなりしていた。
どういう神経してんだこいつら…。
呆れすぎて起こる気にさえならない。
「あぁ〜蒼空チャン。テレビ、借りとるで」
テレビを見ていた男の方が私達に気づいて、画面から視線をそらし、こっちを向いた。
「咲斗!お前なにしに来たんだよ…。さっさとテレビ消せっ」
「えー…今めっちゃええとこやのに」
「そーゆう問題じゃねーって」
「ハイハイ」
そう言うと咲斗と呼ばれた方の奴は名残惜しげにテレビを消した。