13月32日と25時の昼夜
 でも、披露宴の招待状を送ったはずの元彼から返事はこなかった。

 私が一方的に捨ててしまったし、当たり前とも覚悟していたけれど、友人の口から出たのは驚くべき情報。


「知らないの? あっちゃん俳優さんになってから、映画の撮影で忙しいんだよ」

「で、あの人気歌手と結婚してて、子供もいたよね」

「そうそう! 双子だっけ?」


 耳鳴りがした。

 つまらない、つまらなすぎる。

 ──別れなきゃ良かった。


 少し離れた場所で知人たちとバカ笑いしている旦那を見やる。

 すごく悔しい気持ちが込み上げた。




 だが、その旦那との間に子供が生まれ、家族3人幸せに暮らした。

 子供が自立した後も、旦那と二人きりで長くを共にして、とうとうその日がやって来た。

 それは旦那が74歳で、70歳の私が癌(ガン)で危篤の時。


 旦那と息子夫婦、そして孫が囲むベッドの中に横たわる私。息子が手を握り、


「母さん、何が欲しい?」


 と尋ねる。


「……もういいの」


 か細い声で私は答えた。

 だって、願ったってもう意味はない。もう死ぬんだし、手に入れてもまた手放さなくてはならないのだから。
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