13月32日と25時の昼夜
 若い頃は、あんなにも欲に塗れて手に入れようとしてきたけれど、今になってようやく分かった。

 欲しいままに手に入れても、死んでしまえば0。これまでの人生を、そんな無駄なことに費やしてしまっていたのか──。
 そう思うと涙が出た。


 そんな私の涙を拭い、旦那は言うのだ。


「お前が欲しいと言うなら、何でもやると言っただろう? お前が『生きたい』と言うなら、お前の分まで生きてやる。『独りで死にたくない』なら、俺も一緒に逝こう」


 シワだらけになった旦那の優しい微笑みと、あの日の言葉に、私も笑顔を取り戻す。


「そうね……なら、最後まで幸せに生きて。慎司、私がいなくなった後、お父さんをお願いね。何があっても家族は守るのよ。
 それから、葬式は小さくでいいの。身内だけでしてちょうだい」

「分かったよ、母さん」


 人間とは、なんて欲深い生き物なのだろう。最後まで、遺言として欲求を残すなんて。

 私の手を握っていた息子の手が離れ、今度は旦那が握りしめた。
 抱き締めるように、きつく、きつく。


「お前がいてくれて、幸せだった。愛してるよ、美香」

「ええ、私も……。ありがとう、あなた──」








End.

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