その透き通る手で
少しだけ苦いものを混ぜた笑顔で、レンは踵を返してしまう。
引き止める言葉を選ぶ時間さえくれずに。
後ろからオレンジ色に照らされて、背中を見送るわたしには、レンがキラキラ輝いてるみたいに見えた。
――天使みたい。
目を離したら、ぱっとどこかに消えちゃいそうで、急にすごく不安になる。
次いつ会えるかだってわからないのに。
今度は何日探せば、わたしの前に現われてくれるの?
離れていく距離が、辛すぎるよ。
「清!」
なんの前触れなく、まるでわたしの心を読んだみたいに振り返ったレンは、
「またな!」
って、大きく手を振ってくれた。
それからまた歩き出す。
そんなレンを、もう、消えてしまいそうだなんて思うことなく、わたしは最後まで見送れた。
……知らなかった。
ただの挨拶だって思ってたその言葉は、こんなにも大切な約束を意味するんだね。
『またな』。
『またな』。
去り際にくれたレンのさりげない優しさを、
わたしは何度も心の中で繰り返した。