その透き通る手で


「楽しそうですね」


ふと、図書室のカウンター越しに、六川先生が声をかけてくれた。

 眞井は書庫の整理中。
 わたしは返却された本を書棚に戻す手を止めて、『楽しそう』って言われた理由に思い至る。


「……わたし、今、鼻歌歌ってましたよね……?」

「ええ。とても気持ちよさそうに。何か、嬉しいことがあったんですか?」


 嬉しいこと。

まるで、小さな子がクリスマスを待ち遠しく思うみたいに、レンがまたわたしの前に現れてくれる日を、毎日わくわくしながら待ってる。


「わたし、知りませんでした。待つってこんなに楽しいことだったんですね」

「何を待ってるんです?」

「えー、内緒ですよー」


もったいつけるように言ってみせると、六川先生はすぐに勘が働いたみたい。


「好きな人、ですか?」

「……まだ、わかりませんけどね。確認中です」


 うん、これって結構的確な答え。

 もっと会って、話して。そうじゃなきゃ恋になるかどうかなんてわからないもの。

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