その透き通る手で
 そうしてあたたかそうなてのひらが、わたしの頬を包み込むように触れた。



 なのに、その感覚は全くなかった。



 ぬくもりも冷たさも何もない。風が撫でるような感触でさえ。


 やがて、その何もない感覚を教え込むようにじっとしていた手は少し離れ、人差し指がそっと肌を滑っていき、唇をなでる。


――ううん、本当は違う。
 もう、わかってた。
 
 実体のないレンの手は、どれだけ近くにあってもわたしに触れることはなかったんだって。



「……俺、なんか幽霊みたいだ」



 そう言ってレンは笑った。それは、胸が潰れそうになる笑顔だったけど。その目は、悲しみに溺れそうに揺れていたけど。


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