その透き通る手で
第二章 踊り手のいない恋




 本と、お日様と、ほんのちょっぴり甘い香り。
 図書室は安心って名前の空気でいつも満たされてると、わたしは思う。


 こっそりと中をうかがうと、カウンターには六川先生が、近くの本棚には眞井がいて、突然現れたわたしに驚いたような顔をした。

 ……扉のすき間から、首だけにょっきり出した人がいたら、誰でも驚くよね。


「なにしてるの? 清……変よ?」

「うん、まあえっと、ちょっと事情がね」


 煮え切らない返事に眞井は首をかしげ、六川先生は思い至ったように微笑んでみせる。


「仲江さん。僕らの他に誰もいませんから、相談事でしたらどうぞ」


 入口でまごまごしていたわたしを、優しく手招いてくれる。
 さすが、困った生徒の駆け込み寺と名高い、図書室の主は違うな。

 わたしは後ろを振り返って目配せしてから図書室に足を踏み入れた。

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