その透き通る手で
いつもは教室で済ませるお弁当を、眞井を教室から引っ張り出して向かったのは校舎の裏庭。


ここなら他の子たちはあんまり来ないし、内緒話にはうってつけ。


「珍しいわね、清が内緒話したいだなんて」


まっすぐな黒髪を揺らして、眞井は辺りを見渡した。人通りがないことを確認してくれたみたい。



眞井白雪。図書委員長。

しらゆき、だなんて可愛い名前なのに、本人はすごく嫌がってる。


眞井いわく、『酒飲みでぐうたらな元父が付けた、清酒の名前』なのが気に入らないんだって。

だから、わたしだけじゃなくてみんなが苗字で呼ぶ。
お母さんの旧姓の苗字は、名前みたいな響きだから気に入ってるみたい。


……眞井はびっくりするくらい色が白くて、白雪って名前にぴったり合ってると思うけど、そんなこと、本人には絶対言えないんだよね。


「――で、話したいことって、なに?」


好奇心に目を輝かせながら、膝の上に広げたお弁当そっちのけで眞井は聞く。


「んー……すごく説明しにくい話なんだけど……」

「急にもったいぶらないでよー」

「そう言われても、わたしだってわけわかんないんだから」


これは本当。
授業中ずっと考えてても、結局上手くまとまらなかった。
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