各駅で行こう!
一章
子供は海を見ていた。
崖から見下ろす海は、幼い頃から知るものなのに今日だけは違って見えて。
当たり前なのかもしれない。
その子は小学生という若さで、今この瞬間にも飛び下りようとしていたのだから。
一歩踏み出した途端、世界が広がった気がした。
これで楽になれる。苦しいことがなくなる、と。
それしかもう、頭になかった。
いるかもしれない『自分を愛する人』が悲しむとか、自殺してはいけないとか。
そんな「常識」はもう、カケラも頭の中にはなくて。
ただ、ただ―――。
その先に自由があると信じて…一歩を。
崖からズルリと足が滑り落ちた。
瞬間、感じたのは浮遊感。重力に従った、落下。
「…あ…」
声がわずかに漏れ、思わず目をつむる。
刹那、ぶわりと恐怖が湧き上がった。
「あぶないなあ」
ふわり、と感覚が変わる。
海と岩場に向かって落下していた身体は、引き上げられるように空中で抱き抱えられたのだ。
「少年、自殺か?それとも事故か?どちらにしろ、こんな場所をうろつくなんて感心しないな」
子供は、ゆるゆると開いた目を頭上へ向ける。
「…は…ね?」
自分を抱える青年の背中には、白く大きな翼が広がっていた。
それは、天使の羽。
逆光で見えない青年の顔が、笑ったように見える。
「少年、戻るよ」
「う…ええ!?」
バサリと大きな羽音がして、小さな身体は青年に抱えられたまま大きく飛び上がった。
「うわああッ!」
叫び声だけが、海へと落ちていく。
これが、物語のプロローグ。
崖から見下ろす海は、幼い頃から知るものなのに今日だけは違って見えて。
当たり前なのかもしれない。
その子は小学生という若さで、今この瞬間にも飛び下りようとしていたのだから。
一歩踏み出した途端、世界が広がった気がした。
これで楽になれる。苦しいことがなくなる、と。
それしかもう、頭になかった。
いるかもしれない『自分を愛する人』が悲しむとか、自殺してはいけないとか。
そんな「常識」はもう、カケラも頭の中にはなくて。
ただ、ただ―――。
その先に自由があると信じて…一歩を。
崖からズルリと足が滑り落ちた。
瞬間、感じたのは浮遊感。重力に従った、落下。
「…あ…」
声がわずかに漏れ、思わず目をつむる。
刹那、ぶわりと恐怖が湧き上がった。
「あぶないなあ」
ふわり、と感覚が変わる。
海と岩場に向かって落下していた身体は、引き上げられるように空中で抱き抱えられたのだ。
「少年、自殺か?それとも事故か?どちらにしろ、こんな場所をうろつくなんて感心しないな」
子供は、ゆるゆると開いた目を頭上へ向ける。
「…は…ね?」
自分を抱える青年の背中には、白く大きな翼が広がっていた。
それは、天使の羽。
逆光で見えない青年の顔が、笑ったように見える。
「少年、戻るよ」
「う…ええ!?」
バサリと大きな羽音がして、小さな身体は青年に抱えられたまま大きく飛び上がった。
「うわああッ!」
叫び声だけが、海へと落ちていく。
これが、物語のプロローグ。