腕挫十字固-うでひしぎじゅうじがため-
「……あんたが車に詰め込まれてるのを見たんだよ」

 この青年も時弥と同じようにこの町を訪れ、偶然にその場面を目撃した。

「警察には?」

「取り急ぎ近くの交番に伝えたがな。本気にしてくれたかどうか」

 成人した男を連れ去る事件など田舎町の警官が信じるかどうか疑わしかった。

「じゃあ携帯で……」
「生憎とここは圏外だ」

 杜斗は自分の携帯を取り出して示す。

「あっそうだ。俺の携帯とサイフ」

 取られた事を確認して時弥は立ち上がった。

「! おいっ止めろ」

 杜斗の声をスルーして時弥は3人がいた付近を探し始める。

「あ、あった」

 腰まで積まれたパレットの上に革のサイフと赤い携帯が乗っていた。のんびりと歩いてくる時弥を急かすように手巻きする。

「バカか!」
「大丈夫だって」

 しれっと言い放つ時弥に杜斗は呆れて頭を抱えた。
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