【S・S集】25時〜溢れた時間〜
「おい! フロ上がりにビールぐらい出せよ!」


パジャマ姿で、頭をタオルで拭きながら夫が怒鳴る。
台所から“プシュッ”っと返事が聞こえる。しばらくすると、台所と居間をつなぐ引き戸が半分だけ開き、ジョッキだけが出てきた。


無言で出てきたそれを取り、テレビの前を陣取り飲み始める。


(ちきしょう、最近は言わないと出しやがらねぇ。全く誰のために働いてると思ってるんだ!)


飲み進めるうちに、気が大きくなった夫は段々と妻が疎ましく思えてきた。


(こいつがいなきゃ、もっと楽できるんじゃないのか?)


そのとき、流れていたニュースから気になる言葉を拾う。


『……被告は犯行当時、酩酊状態にあり責任能力を問えるかが、今後の焦点となるでしょう。』


(!!もしかして酔っ払った状態なら罪が軽くなるのか? なら勢いに任せて、あいつを……)


この瞬間、夫の意識は途切れる。


タイミングを計ったように、引き戸が開き妻が出てきた。


「中身が違うことにも気付かないんだから、だからあんたはダメなのよ」


夫を見下し、吐き捨てるように呟く。
空になったジョッキを持ち上げ、それを持ちながら台所に戻っていく。


「まったく、一杯で酔い潰れるんだから、あんたにはビールなんて勿体ない」


ジョッキを洗った後に、両手で発泡酒の缶を潰しゴミ箱に投げた。

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