心の隙間風
「ながの…じゃなくてちょうの、って読むのね」
珍しいなんて私と話していながら視線は確実に寺内君だ。
他のクラスの女子は遠巻きに高木さんを見ている。クラスの女子からも人気がある寺内君の許嫁なんて大々的に告白してしまったら、そんな目で見られてもしょうがないだろう。
私は気まずい空気に堪えかねてそうだ、なんて言いながら机の横に掛かっている紙袋を寺内君に渡す。
「昨日はありがとう。大したものじゃないけど…よかったらご家族と召し上がって」
「そんな、わざわざよかったのに」
「ほんとに大したものじゃないから!昨日は本当に助かったから…」
ありがとうと言いながら寺内君はそれを机の横に掛ける。
「あれから…何かあったか?」
「ううん、何も。父からも連絡とかないし」
そっか、と呟くと同時チャイムが鳴った。遠巻きに見てた女子たちも席に戻る。
「…つまんない」
小さく呟いた禮花の言葉は里穂の耳に入ることはなかった。