心の隙間風


「由行はねー」

なんて高木さんから小一時間位色々と寺内君の良さについて語られている。

「彼は婚約は親同士の取り決めって言ってるけど、本当は小さい頃の約束なの」

へ~なんて打つ相槌は段々とマンネリ化してくるが、彼女は気にしないらしい。

放課後の静かな教室に響く彼女の声ははっきり言ってしまえばウザい。

「そう言えば、」

そう話を切り出して真っ直ぐに私の瞳を見つめる。

「さっき由行に渡してたもの、何?」

「大したものじゃないよ…」

「じゃあ、なんで渡したの?」

彼女は寺内君の婚約者で、私と彼に何か関係があるかと疑うのはしょうがないかと、しつこい質問に答える。

「助けてもらったから、そのお礼に」

「…何で?」

「何で…って、襲われた所を助けてもらって御礼をするのは当たり前でしょ」

ふーん、なんて言いながら彼女はしっかりと私の目を見つめてくる。まるで、その瞳に映る自分の姿に惚れ惚れしているような。

「ねぇ、長野さん…いえ、里穂のお父様は何をしてらっしゃるの?」

もうこの人は何もかも知っている、そう思った。

「…外資系の会社を経営してるけど」

そっか、なんて笑みを見せる。

まるで無垢な少女だとアピールしたいかのように。

「じゃあ、もう遅くなっちゃうから帰りましょ」

誰のせいだと思いながら私は席を立った。


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